町田市 谷口動物病院 犬猫専門の病院です
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尿石症 3
2013年01月10日 (木) | 編集 |
年齢のことや、口腔内や脾臓の腫瘍などいくつかの心配事を抱えつつの尿石症手術。




今回の症例では、1mm以下~最大でも3mm程度と極めて小さな尿石が、数十~数百個と極めて多量に膀胱内に存在すると推測されます。




20130105tah02.jpg
○で囲ったところが尿石。下側の白く光る帯状の部分は、数mmの微細な尿石が多数沈殿している様子。



膀胱結石の手術では、このような細かな尿石が多数存在するパターンというのが一番厄介。



大きな物が2~3個というのであれば、ピンセット等で簡単につまんで取り出せますが、数mm以下のものとなると、スプーン状の器具で何度もすくいとらなければなりませんし、すべてを残さず除去するのが大変です。



万全の態勢を整え、手術開始。





皮膚・皮下脂肪を切開し、腹壁(腹筋)を開いて膀胱を探ると・・・



20130105tah04.jpg


ジャリジャリ・・・



ありました。やはり多量の砂粒状の尿石の手ごたえです。エコー像から予想していたよりも多いようです。



膀胱自体も、炎症のためにひどく分厚く腫れてしまっています。




まずは膀胱の周りを濡らしたガーゼでおおいます。尿や尿石で腹腔内を汚染しないようにするためです。



膀胱の状態をよく確認し、なるべく血管の少ない部分を選んでメスを入れます・・・




と、このとき突如、心電図に異変が!




それまで、全く問題なく安定していた心電図の波形が突如乱れ始めたのです。




新津さんからの報告を受け、即座に状況確認を指示。



心電図の電極が外れていないかなどの機器のチェックと同時に、聴診・触診で心臓の拍動を確認します。



術者である私も、膀胱表面の血管の状態から、できる限り循環状態の把握に努めます。



どうやら、完全な心停止ではありませんが、かなり危険な状態に陥っているようです。



術前の心電図などでは異常は認めらませんでしたが、高齢犬の衰えた心臓に致命的な不整脈が発生したようです。



即座に手術を中断。ガス麻酔は停止し、心臓拍動を刺激するタイプのお薬を投薬、心臓マッサージをおこないます。




数分後、何とか心臓の拍動も再開し、血圧も維持できているようでしたが、心電図上の波形はかなり不安定な様子。



ガス麻酔を停止しているにも関わらず、麻酔から覚める気配はありません。



このまま手術を続行するか、手術を停止し、蘇生に専念するか・・・



飼い主様の緊急連絡先にお電話しても、お仕事中なのか留守番電話になってしまい、状況をお伝えすることもできません。



手術を中断するかどうか迷うところではありましたが、様々な条件・状況を考慮したうえでこの場は手術続行を決断。



腹筋を閉じたり、皮膚を縫うのは多少麻酔から醒めかけていても何とかなりますので、麻酔停止しても意識がないのであれば、この時間を最大限利用して尿石を除去するほうがよいと判断したのです。



大急ぎで膀胱を切開し、内部の尿石をすくいだします。



すくいきれない細かな尿石は何度も膀胱内を洗浄して洗い流します。




20130105tah05.jpg
摘出した尿石です。数え切れないほどの多数の細かな結石です。



その間も、心臓の状況は極めて不安定。麻酔薬を完全に停止した状態にもかかわらず、意識が回復する様子は全くありません。



術中にさらに2度の心停止が発生し、心臓マッサージで回復させつつ何とか膀胱の処置を終え、腹壁を閉じる段階に入ったのですが・・・



後はお腹を縫うだけ、という段階になって4度目の心停止。


新津さんが何とか目覚めさせたいという思いで、懸命に心臓マッサージを続けてくれたのですが、残念ながら再び心臓が動いてくれることはありませんでした。




理屈としては、今回こういった術中死があり得るということは理解していましたし、飼い主様にもその危険についてご説明はしておりました。



ですが、術前検査の結果や、食欲・元気の状態から、おそらく手術に耐えてくれるだろうと期待していただけに非常に残念な結果でした。



その後、飼い主様にご連絡を取れたのは、手術が終了してから数時間がたってからでした。



飼い主様からは「ベストを尽くしていただいた結果ですので・・・」とおっしゃっていただき、むしろ感謝と労いのお言葉をかけていただきましたが、私としては、やはり元気なワンちゃんのお顔を見せて差し上げたかった。



決して楽観視していたわけではありませんし、油断していたわけでもありません。



ですが、やはり「何か違う方法をとっていれば、命を助けることができたのでは?」という思いが強くあるのです。



勤務医時代の院長の言葉を思い出します。



「獣医師として働いていると、どんなに懸命に手を尽くしても、思ったような結果を残せずに苦しむ時が訪れるもの・・・」




もう7~8年前にかけていただいた言葉なのですが、今さらながらにその言葉の重さを痛感しています。




今回助けることのできなかったワンちゃん。13歳にもなろうというおじいちゃん犬なのですが、とても元気で人懐っこく、散歩に連れていくと新津さんをグイグイと引っ張っていく程。



尿道カテーテルを管理する処置の間中も元気に動き回るので、「まったく、元気なおじいちゃんだね~」なんて言いながらの処置でした。



Lちゃんのご冥福を、心よりお祈りいたします・・・