町田市 谷口動物病院 犬猫専門の病院です
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脾臓腫瘍
2012年11月30日 (金) | 編集 |
こちらは今年の2月から経過観察を続けていた症例の超音波画像です。




20121130tah01.jpg




もともとは下痢や嘔吐といった消化器症状でご来院いただいた症例なのですが、その検査過程で脾臓に腫瘍が見つかったワンちゃん(Tちゃん)です。




脾臓の腫瘍には、良性・悪性の両方がございますが、そのどちらにも共通するのが「突発的な出血の危険性」。




巨大化した脾臓腫瘍はもろく、前触れもなく大出血をおこすことがあります。




そのため、脾臓にある程度の大きさの腫瘍が見つかった場合、腫瘍が良性か悪性かにかかわらず、できる限り摘出手術をおこなうのが望ましいとされます。




Tちゃんでも大学病院での手術をご提案したのですが、すでに高齢であったことと、呼吸器疾患を併発していたことなど手術そのものの危険性も無視できないものがありました。




そのため、飼い主様とご相談の上、「突然の出血」の危険は覚悟しつつ、積極的な手術はおこなわず、経過観察としておりました。





それから9カ月の間、定期的に超音波で腫瘍の状態を観察。




2週間毎に超音波検査をおこなっていたのですが、毎回のようにサイズ・構造に変化がみられるなど、非常に活動的な経過をしめしていました。





20121130tah02.jpg




この写真は、初めての診療からちょうど9カ月がたった時点での超音波画像です。




初めは球形に近かった腫瘍の形状が、9か月の間にサイズを増し、楕円形に変形しております。




9か月のあいだ、腫瘍内での細かな内出血と思われる映像は時折観察されておりましたが、腫瘍外部への出血は観察されず、比較的安定した状態を保っておりました。
(腫瘍内部での内出血は少量で収まるが、腫瘍外部に向かって出血すると大出血に陥りやすい)




この時点でも、Tちゃん自身の元気・食欲など一般的な状態は落ち着いており、飼い主様にも「危険はあるものの、まだ落ち着いているようですね」とお話していたのですが・・・




この最後の検査の2日後には、恐れていた大量出血が発生。




腫瘍は腹腔内で出血するので、見た目に解るような出血は起きませんが、急激な血圧低下・貧血によって、ぐったりと脱力し、呼吸状態も不安定になってしまいます。




それこそ、たった半日の間に急激に状態が悪化してしまいます。




腹腔内腫瘍から大量出血が起きた場合、緊急手術で出血している腫瘍そのものを摘出するしか命を救う手立てはございません。




Tちゃんの飼い主様には、初めての検査の時点から、「いつこういうことが起こってもおかしくない」というお話をしており、飼い主様もご覚悟されていました。




それでも、出血多量で半日もしない間に具合が悪くなるTちゃんの姿を見るのは、さぞお辛いことだったでしょう。




こういった症例で、「初めの段階で、危険は覚悟の上で手術をする」のが正解だったのか、それとも今回のように「危険は承知しつつも、できる限り負担をかけずに経過観察をする」のが正解だったのか、われわれ獣医師にも解りません。




もしかしたら、初めに手術をしていれば、手術に耐えられずに亡くなっていたかもしれません。




もしかしたら、手術が無事成功し、今も元気にしていたかもしれません。




結果はだれにも解りません。




最終的に飼い主様に治療方針を選択していただくしかないのです。




我々獣医師にできることは、飼い主様が治療方針を選択するに当たって、できる限り正確な情報を中立な立場でご提供し、判断材料にしていただくこと。




そして、いざ、治療方針が定まったら、その治療方針の中でできる限り手を尽くし、最善の結果を目指すのみなのです。





こういった症例に出会うたびに、




「飼い主様・ワンちゃん・ネコちゃんにとって何が幸せなのか? 何が最善の治療法なのか?」 




それこそが、一番大切で、一番難しい課題だと感じさせられるのであります。



あらためて、今回ご紹介させいていただいたTちゃんのご冥福をお祈り申し上げます。