町田市 谷口動物病院 犬猫専門の病院です
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傷がふさがらない!
2012年07月09日 (月) | 編集 |
ここしばらく通院していただいていたネコちゃん。




別の病院さんで乳腺腫瘍の疑いで、「乳腺全切除術」、つまり左右の乳腺を上から下までごっそりと切除したそうなのですが・・・




20120709tah01.jpg




手術から一カ月たっても傷口が治りきらず、4回ほど縫いなおしているそうです。





上写真の黄色丸でかこった部分が問題の個所。





縫合した糸の周りが赤く炎症を起こし、傷口が開いてしまっています。





いくら縫いなおしても、またすぐ傷が開いてしまうそうで、「なんとかならないか?」と当院にいらっしゃった症例です。





さて、このように手術の傷口が治りにくい場合に考えることは・・・




1.手術法、縫合法など技術的な問題

2.何かしらの内臓疾患、皮膚病、ホルモン疾患を併発しているなど動物側の問題

3.1・2の両方



さて、今回の症例はどうかというと・・・




まず、写真を見てわかるように、左右の乳腺をそれぞれ別々に切除しているため、大きな傷口が2本並行に並ぶことになっています。


これを、それぞれに縫合して傷を塞ごうとしているのですが・・・



そうすると、下図のような力が傷口にかかることになります。



20120709tah02.jpg




これをもうちょっと整理して考えると・・・





20120709tah03.jpg



黄色く書いたお腹の中心線に向かって、右側の傷が開こうとする力に、左側の縫合糸が引っ張る力が合わさって、余計に強く引っ張られることになっていることがわかります。当然、反対側も同様であります。




結果、それぞれの力が一番強くかかる部分の傷が、いつまでたってもふさがることができずにいるようです。




ちょうど、向かい合った部分が塞がらないことでも、そのことが推測できます。




私の今までの経験・知識、手持ちの教科書を調べる限り、「乳腺全切除術」をおこなう場合は、この部分の傷口は一本になるように切除するはずなのですが・・・




どういった経緯で、このように2本の並行した術創になったかは不明ですが、このことが傷口の治りを悪くしているのは間違いないようです。




とはいえ、いまさらどうしようもありませんので、この状態でなんとか上手くいくように工夫しなければいけません。




こういった傷の治癒を考えるには、「治癒を妨げる要因」をいかに排除するかがポイント。





今回のネコちゃんでは、2本平行に並んだ縫合線によって、お互い引っ張り合う力がかかっているのが問題と推測されますので・・・




その引っ張り合う力をいかに分散させ、傷口にかかる負担を減らすかを考えなければいけません。




20120709tah04.jpg




んで、こんな風に縫いました。




単純に縫うだけでは今までと同じ繰り返しになるのは目に見えていますので、写真のように、通常よりも太めの糸をつかって、大きく縦方向(傷口と水平)にループ状に縫合してやります。




水平マットレス縫合という縫合法で、このような大きな力がかかる傷口を閉鎖する際の基本的な縫合法です。



このマットレス縫合で、左右の傷にかかる「引っ張り合う力」を緩和しておき、通常の縫合で傷口を塞ぐという2段構えの縫合であります。




その後は、数日ごとに傷口を拝見し、包帯法などの治療も組み合わせること約10日間・・・





20120809tah05.jpg





若干、ひきつれた様なあとは残りますが、上手くふさがってくれました。




「乳腺全切除術」は、腹部の上から下までかなり広範囲にわたって、おっぱいをごっそりと切除する手術ですので、このように傷が治りにくいというのは十分に考えられることです。



ですので、手術に臨む際に、そういったリスクについてしっかりと飼い主様にご説明し、御理解いただくことと、万が一、このような事態に陥った場合に、しっかりと対処できるように準備しておくことが大切です。