町田市 谷口動物病院 犬猫専門の病院です
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心房破裂 ②
2011年06月10日 (金) | 編集 |
さて、先日のお話しの続き・・・


心臓の周りに液体が貯留する「心膜液貯留」をおこしたワンちゃん。


無事に、 「胸水」を抜いて呼吸状態を少し改善したところで、いよいよ心臓周囲の液体を抜いていきます。



20110607st.jpg
「心膜液」をおおっている白い膜構造が「心膜」



さて、この「心膜液貯留」ですが、以前にもとりあげたことがありますが、心臓の表面を覆う「心膜」と「心臓」の間に、何らかの原因によって液体がたまる症状です。

原因は、心臓病だったり、心臓腫瘍だったり、特発性(=原因不明)だったり様々です。

そして、心臓周囲にたまった液体による圧迫で、心臓の動きが制限され、心不全症状が発現したのが「心タンポナーデ」という状態です。(「心膜液貯留」=「心タンポナーデ」ではない)


上の写真をみていただくと、心臓周囲にたまった液体によって「右心房」が押しつぶされてしまっているのがお分かりいただけると思います。


このように、特に右心房が圧迫されてしまい、心臓のポンプ能力が激減してしまうのが「心タンポナーデ」の特徴です。


この状態は、いつ心臓が止まってもおかしくない状況。


早急に心臓周囲にたまった「心膜液」を排除しなければいけません。



20110607st2.jpg


どうやって「心膜液」を抜くかというと・・・


普通に注射針を肋骨の隙間から突き刺して吸い出します。


といっても、胸の皮膚の表面から心臓までの距離はわずか12.9mm。
液体が溜まっている空間は、およそ6mm。

この液体のたまった6mmの空間に、超音波の画像を頼りに注射針を刺して液体を吸い出すのです。


なかなか細かい作業のようですが、実はこの6mmの空間に針を進めるという作業自体はそんなに難しいことではありません。


目標までの距離が正確にわかっているので、まずはそれに合わせた長さの針を選択します。


もちろん、ピッタリ同じ長さの針があるわけではないので、感覚的に一番使いやすい針を選択します。


今回は25mmの針。


あとは、この針を液体を抜くのにちょうど良い距離、およそ8~9mm(針全体の長さの1/3)刺せば良いだけです。


おまけに、液体が溜まっている「心膜」に針を刺す瞬間は、かすかに手ごたえがあるので、その感触を逃さないように慎重に針を進めれば良いのです。


こういった作業は、我々が日常的におこなう採血と同じ理屈です。


血管までの距離を目測、もしくは手の感触で探り、血管壁を突き抜ける感触を目安に針を進めるのと同じ。


と、このように針を6mmの空間にさすことそのものは、ある程度経験を積んだ獣医師なら難しいことではないのですが・・・


実際には、目標となる心臓は、一分間に180回とか200回といったものすごいスピードで拍動しています。


なおかつ、心臓発作の状態で、呼吸状態も不安定なため、呼吸に合わせて胸そのものも不安定に動きます。


そして、一番のネックは動物自身が暴れる可能性があるということ。


「心タンポナーデ」をおこして、心臓発作の状態にある症例に全身麻酔をかけることは危険ですので、局所麻酔(針をさす時の痛みを和らげる)での処置になります。


そのため、ワンちゃんの性格によっては、体を横に寝かせて押さえられること自体に抵抗して暴れる可能性があります。


針を刺している時に暴れられ、針が心臓周囲の重要な血管を傷つけてしまうと致命的です。


それどころか、すでに心臓発作をおこしている状態なので、暴れて興奮した時に心臓が止まって亡くなってしまう可能性もあります。


この治療の成否には、まずワンちゃんを押さえる「保定」を確実におこなう看護師の技量が一番重要。


次に、実際に処置をおこなう獣医師の、動物が暴れた際に素早く針をひきぬく反射神経。これかなり重要。


相手(動物)の動く気配を察知し、考えるよりも早く指先を動かす打撃系格闘家的センス。


危険は承知。でも、やらなければ助からない状況。


生きるか死ぬかの瀬戸際。


ただし、今回、いつもとは違うプレッシャー。。。


飼い主様は若い御夫婦で、奥さまはいつ赤ちゃんが生まれてもおかしくない状態。


奥さま、ワンちゃんがとても心配でならない御様子。


旦那様は、そんな奥さまとワンちゃんと両方が心配でたまらない御様子。


無事に元気な赤ちゃんを産んでいただき、新しい御家族をワンちゃんともども迎えていただくためにも、成功させなきゃいけないプレッシャーひしひしです。

つづく・・・