町田市 谷口動物病院 犬猫専門の病院です
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学会 TOPICS No 1 猫のフィラリア症
2009年02月16日 (月) | 編集 |
2009/02/16

学会トピックスの一つ目はネコちゃんのフィラリア症です。

P1000227.jpg 中央が心臓。両側が肺です。血管の中の白いのがフィラリア。

フィラリアというと、ワンちゃんを飼ってらっしゃる飼い主様にはピンと来ると思いますが、素麺のように白く細い寄生虫で、心臓血管系に寄生する虫です。

写真のように心臓から肺にかけての血管周辺に寄生します。

こんな虫が心臓に寄生すれば、心臓の働きに異常が生じて、心臓病の症状が出てきます。
この虫は血液の中に子虫を生むのですが、それを蚊が血液といっしょに吸って、別の犬を吸血した時に移すようになります。

このフィラリアという虫は、猫にも寄生することは以前からわかっていましたが、犬に比べて感染に抵抗性が強く、猫の体内でフィラリアが十分に発育しないことが多いこともあって、現在まであまり関心の高い病気ではありませんでした。

フィラリア


ワンちゃんではずいぶん前から予防が徹底され、日常の診療でも、重度の心不全を起こすほどのフィラリア寄生というのは見かけなくなってきています。

ごく最近まで、ネコちゃんではフィラリアの予防は必要ないだろうというのが大半の獣医師の考えでした。

しかし、ここ近年、ネコちゃんのフィラリア寄生による「HARD:heartworm associated respiratory disease」が注目され始め、今回の内科学アカデミーでも猫のフィラリア症の権威といわれるDr. Dillonが来日され、講演を行いました。

この猫フィラリア症による「HARD」とは、感染したフィラリアが肺血管に侵入し始めたころに急性の炎症反応がおこったり、心臓・肺血管に寄生していたフィラリアが死滅し、その死骸が肺の血管に詰まってしまったりして重度な肺障害が発症することをいいます。

症状には幅があり、無症状のものから、一時的に咳をするようなもの、ひどければ突然死をする症例もあります。

猫のフィラリア症の診断はさまざまな理由で難しいとされており(犬と同じようにはいかないのです)、この「HARD」も喘息やアレルギー性気管支炎と誤診されることが多いようです。
そして、たいていの症例が誤診された状態でも、ある程度の期間で回復してしまうので、フィラリア症だと認識されないケースが数多く存在する可能性があります。

実は私は去年の夏に、この「HARD」と思われる症例を診察したことがあるのです。(そして、おそらく誤診したのではないかと考えています。)

ピノ

その症例というのは実は我が家のピノです。

昨年の7月初めごろから、元気・食欲は問題ないのですが、時折せき込むようになりました。

自宅で聴診したところ、少し肺音に異常を感じたので、さっそく病院に連れて行ってレントゲン撮影・血液検査をおこないました。

HARD.jpg 向って左が「右肺」。丸で囲ったところが肺炎と肺動脈の拡張です。反対に比べると白く濁っているのがわかると思います。

血液検査では全く異常はありませんでしたが、右の肺に肺炎の所見と、血管の異常(肺動脈の拡張)が認められました。
血液検査に明らかな異常がなく、本人も咳以外には全く症状がなかったため、「アレルギー性の気管支炎」だろうと考えて、そのように治療しました。

幸い、二週間程度で症状は治まったのですが、「本当にアレルギー性か?」という疑問が残りました。
症状的には確かに「アレルギー性気管支炎」であり、治療にも反応したのですが、さまざまな状況を考えると、自分自身の診断に納得できないでいました。
「アレルギーでなぜ肺動脈の拡張がおこるんだ?」「何か別の要因があるのでは?」と思っていたのですが、その時には「HARD」について考えが及びませんでした。

その後、数カ月して、たまたま雑誌に「HARD」が特集されているのを読んだ時に、「間違いなくこれだ!!」と確信したのです。

今となっては確定診断を下すことはできませんが、症状・レントゲン画像(HARDでは右肺動脈周辺の肺炎症状、肺動脈の拡張が特徴的)からすると、ほぼ間違いないと考えられます。(少なくともアレルギー性気管支炎と考えるよりも、よっぽどしっくりきます。)

今回は幸い大した症状もなく回復しましたが、突然死の可能性があったかも知れない(実は、もし今でも体内にフィラリアが寄生して生き残っていれば、これからも突然死の危険があるのです)と考えると今でも背筋が寒くなります。

そして、過去に見てきた症例の中にも、同じような誤診をした症例があるのでは・・・?
いままで、猫のフィラリア症は文献の中だけの話だと思っていたが、実は我々獣医師が思っている以上に身近な病気なのではないか?

この「HARD」については、診断が困難なだけでなく、治療法も確立されていません。

ですので、大切なのはフィラリアの寄生を予防すること。
これに尽きます。

現在、猫のフィラリア予防についての薬剤も発売されていますので(これもここ近年のことです)、ネコちゃんを飼われている方は、ぜひご相談ください。
予防期間は毎年、6月末?11月末の半年間です(半年分のお薬の代金は6000円?7000円程度です)。

当然、我が家のピノも今年から予防を始めます。