町田市 谷口動物病院 犬猫専門の病院です
気管支拡張症
2014年10月27日 (月) | 編集 |
慢性的な咳と、呼吸困難で来院された症例です。



心不全からの咳・呼吸困難と診断され、1か月ほど治療を続けていたそうですが、なかなか改善が無く、当院に来院された頃には酸素室での入院が必要になるほど、重度の呼吸困難に陥っていました。



ワンちゃんで呼吸困難と言うと、たしかに心不全が原因であることが多く、私も初見では心不全からの肺水腫(肺胞内に水分が貯留して換気不全を起こす)を第一に疑い、酸素室での治療を始めたのですが・・・


入院2日目に実施した精密検査の結果からすると、どうも違うようです。


レントゲン・心電図・血圧測定・超音波検査など詳しく調べましたが、心臓には明らかな異常が認められません。



どうやら、気管支の異常で呼吸困難を起こしているようです。


こちらの写真は、呼吸のタイミングに合わせて撮影したレントゲン画像です。

20141027tah01.jpg
左側は「吸気(息を吸う)」のタイミング。 右側は「呼気(息を吐く)」タイミング。


青い丸で囲った部分に気管支が写っているのですが、左の「吸気」のタイミングでは丸く拡張した気管支が写っています。


一方、右側の「呼気」のタイミングでは、気管支がひしゃげてつぶれている様子が写っています。


20141027tah02.jpg
拡大写真。青丸中心部の黒く円系になっている部分が拡張した気管支。右側の画像では、気管支がひしゃげて狭くなっている様子が観察されます。



「気管支拡張症」という病気です。


慢性的な炎症や感染症などが長期間続くと、気管支の壁構造が脆弱化してしまい、気管支に拡張や歪みが生じます。
※掃除機のホースの骨組やビニール部分が劣化してしまったようなイメージ。


気管支が拡張すると、呼吸ガスの通過障害や、気管支粘液の排出障害などが生じ、さらに病変が進行、悪循環していきます。



気管支壁構造が重度に障害され、脆弱化てしまった症例では、「呼気(息を吐く)」時の気管内圧の低下によって、上記画像の症例のように気管支がつぶれてしまいます。

※動物の呼吸運動は、胸部の筋肉運動により、肺を押し縮める力が働くことで息を吐き出します。
押し縮める力は気管支にも加わりますが、気管支壁が正常であれば、気管支は形状を保つことができます。
しかし、気管支拡張症では気管支の形状を保つことができずにつぶれてしまいます。




こうなると、息を吸うときには気管支が拡張して空気を吸い込むことができるものの、息を吐こうとした瞬間に気管支がペコリとひしゃげてしまって、上手く息を吐くことができなくなってしまいます。


ストローで呼吸をしている所を想像してみてください。息を吸うときは問題ないのに息を吐こうとするとストローがペシャっとつぶれてしまって息を吐き出すことができない状態です。



呼吸と言うのは、新鮮な空気を吸い込み、ガス交換の終わった空気を吐き出すことで成り立っています。



「息を吐くことができない」と言うことは、「息を吸うことができない」のと同じくらいに苦しい事なのです。




気管支拡張症は「不可逆性疾患」、つまり一度なってしまうと治ることが無い疾患です。



そのため、ここまで重度になった症例では、内服薬で症状を緩和することはできても、失われた気管支や肺の機能を取り戻すことはできません。



写真の症例のワンちゃんも、初診時よりは随分と状態は良くなったものの、御自宅での酸素室管理が欠かせない状態になってしまいました。



気管支拡張症は、早期に治療を始めれば、元通りに治ることはなくても、悪化を防ぐ事は可能です。



初期のうちは、「ときおり咳きこむ」、「痰がからむ」といった軽い症状しか見られないため、重症化するまで見逃されてしまうことが多い病気ですので、獣医師としても、飼い主様としても注意が必要な病気であります。