町田市 谷口動物病院 犬猫専門の病院です
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縫合糸反応性肉芽腫と水腎症
2014年02月24日 (月) | 編集 |
先日、縫合糸反応性肉芽腫が原因で、腹部の皮膚が壊死してしまったワンちゃんをご紹介いたしました。



前回もお話ししましたが、手術で血管を止血する際に使用する糸に対して、稀に強い炎症反応を示すことがあります。



最近では、組織に対して低刺激で、数カ月で吸収されて無くなる糸を使用することが多いので、あまり見かけることは無くなってきましたが・・・


今でも、古いタイプの糸(絹糸)を使用された症例で発症がみられることがあります。



前回ご紹介したのは、男の子で去勢手術時に使用した糸(絹糸)に対する反応でしたが・・・



今回ご紹介するのは、女の子。



避妊手術で使用した糸に対して縫合糸反応性肉芽腫を起こした症例です。



※当院で避妊手術をした症例ではありません。



避妊手術の際に、子宮の根元を結紮するのに使用した縫合糸(おそらく絹糸)の周辺が炎症を起こし、腫瘍状の塊を形成しています。



20140224tah01.jpg
膀胱の左側(症例にとっては右側にあたる)に21.5mm×17.7mmの腫瘤。



切断された子宮の断端部が、縫合糸反応性肉芽腫を発症し、しこり状になったものです。



腫瘤の内部には、おそらく絹糸と思われる白い塊が二つ。



絹糸は組織に吸収されることはないので、体内に残り続けます。



20140224tah02.jpg
円で囲った部分が、絹糸(疑い)。



今回の症例では、被害はこれだけではありませんでした。



炎症によって腫瘤を形成した子宮断端部が、「尿管」を巻き込んでしまったために、「水腎症」を併発してしまったのです。



「水腎症」というのは、何らかの理由で「尿管」が閉塞し、腎臓から尿が排泄されなくなってしまったために発症します。


尿管が閉塞しているにも関わらず、腎臓では尿が分泌され続けるために、腎臓が水風船のように膨らんでしまうのです。



図解するとこんな感じ。



20140224tah05.jpg
腫瘍と書いた部分が、縫合糸反応性肉芽腫となった子宮断端部。
それが、尿管を塞いでしまったために、右側の腎臓(絵では左)から分泌された尿の行き場がなくなり、腎臓が水風船のように膨らむのです。


こちらが、実際の超音波検査での画像。


20140224tah03.jpg
「水腎症」を発症した右腎。水風船のようにパンパンに膨らんでいます。





20140224tah04.jpg
正常な左腎。





ここまで進行してしまうと、この腎臓は完全に機能を失ってしまいます。




幸い、左側の腎臓はまだ正常ですので、生命維持についてはさしあたって問題はありません。



ただし、このままですと、炎症反応の進行とともに、肉芽腫が大きくなり、いずれ無事な方の尿管まで巻き込まれる恐れがあります。



そうなる前に、手術で肉芽腫となった子宮断端部と、原因となった糸を摘出しなければなりません。



今回の症例は、周辺組織との癒着が予測され手術が困難な部位であることと、水腎症となった右腎臓の摘出も必要になるため、私一人の手に負えるような手術ではありません。




そこで、手術については川崎にある日本動物高度医療センターに依頼し、連携して治療にあたることとなりました。




このワンちゃんは、まだ4歳と若いワンちゃんなのですが、避妊手術の際に選択した糸一本のために、腎臓摘出という大変な手術をおこなわなければならなくなってしまいました。




絹糸を手術で使用することは、禁止されているわけではありませんが、やはりこういった症例が実際にあるわけですから、できる限りリスクの少ない手術法、手術材料を獣医師が責任もって選択しなければなりません。



もちろん、絹糸を使えば必ず縫合糸反応性肉芽腫になるわけではありませんし、また絹糸以外の糸でも縫合糸反応性肉芽腫の報告はあります。



ただ、その中でも絹糸による縫合糸反応性肉芽腫の発生率が最も高いのです。



前回の男の子の症例といい、今回のワンちゃんといい・・・



この近辺には、いまだに絹糸を使用している獣医さんが少なくないようですねぇ・・・