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町田市 谷口動物病院 犬猫専門の病院です
傷とサランラップ
2010年05月31日 (月) | 編集 |
私が子供のころは、「傷は乾かしてなおせ」というのが当たり前でした。
毎日消毒して、ガーゼを交換。そのたびに傷に張り付いたガーゼをはがす痛みに悲鳴をあげる・・・

いまでも、「傷口は乾かしたほうがいい」「傷は毎日消毒したほうがいい」と思っていらっしゃる方が多いと思います。
実は違うのです。

最近ではそういった治療はかえって傷の修復を遅らせると考えられています。

表皮(皮膚の表面)というのは外界から体内を守るために抵抗力を強く持った組織です。

「傷」というのはこの表皮が障害を受けて、本来なら外界に触れるはずのない組織がむき出しになってしまった状態なのです。

出血 3


表皮の下の組織(皮下組織や筋肉)は、外気にさらされて乾燥するだけで障害を受けるほどデリケートです。
こういった繊細な組織に消毒液(細菌を退治するような薬剤は、むき出しになった細胞にも害を与えます)をふりかけ、乾燥したガーゼで覆うと、かえって組織のダメージを深めてしまうことになるのです。

傷口は「消毒」ではなく「洗浄」をおこないます。
生理食塩水や水道水で十分に洗い流します。この時、あまり水流を強くするとかえって組織を傷害したり、汚れを奥に押し込むことになるので注意が必要です。

「洗浄」によって表面の汚れを洗い流した後、傷口に組織修復を促進するゼリー(ハイドロジェルという)などを塗布して、潤いを持たせた状態で包帯・密閉します。

密閉された包帯の下では皮膚組織が再生を始めます。
再生を始めたばかりの細胞は非常にもろく、乾燥や外気の刺激に対して弱いのです。
必要以上に包帯を交換すると、せっかく再生を始めた細胞が外気に触れてしまって障害を受けてしまい、かえって組織の修復に遅れが生じてしまいます。

ましてや、乾燥させたガーゼを毎日替えるなんてことは、せっかく再生しようとしている弱い細胞たちを毎日カピカピに乾燥させ、ガーゼごと引っぺがしてしまっているようなものなのです。

現在の考え方では、細菌感染が起きていない傷なら、数日から1週間程度は包帯交換をせずに密閉しておくこともあります。
※ 傷の状態、感染症の有無などによって管理の方法は変わってきます。
  
昨日お話ししたダックスちゃんも同様に皮膚に組織修復を助けるゼリー(ハイドロジェル)を塗った状態で密閉包帯をしています。

この子の場合は、細菌感染を起こしていないか初めの数日はこまめに様子を見たいので、今のところは毎日包帯交換をしますが、もう少し皮膚の状態が良くなれば包帯交換の間隔を空けていく予定です。

治療を始めて1日でもう再生した皮膚組織が盛り上がってきています。

1日経過した傷
※傷口が広がったように見えるのは、壊死して機能しない部分の皮膚を取り除いたからです。

もし、ここで「消毒」のために刺激の強い消毒薬などをかけてしまうと、むき出しになった弱い細胞たちがダメージを受けてしまいます。
「洗浄」もあまり強く洗い流すと、表面の再生組織まで洗い流してしまうことになるので、必要最小限にとどめます。

傷の状態をチェックし、必要最小限の「洗浄」をすませたら、いよいよ密閉包帯です。
この時、役に立つのが「ラップ」や「三角コーナー用の穴あきビニール」です。

ラップ


傷口を密閉包帯するための素材はさまざまありますが、このように広範囲をカバーするには「ラップ」や「穴あきビニール」が実に使い勝手がよいのです。

今回は「穴あきビニール」にガーゼを組み合わせて使用します。

ハイドロジェルを塗った傷を「穴あきビニール」でカバーし、その上からガーゼをあてがって包帯します。
これならデリケートな再生組織がガーゼにくっついてしまうことを防げます。
そして、ビニールの穴を通して余分な浸出液(傷から出るジュクジュクの水分)をガーゼで吸い取ることができるのです。

こうすれば、乾きすぎることも無いし、傷口が必要以上にグチュグチュになることも防げるのです。

傷から出てくるジュクジュクを浸出液と呼ぶのですが、これは実は傷の修復には欠かせない存在なのです。
浸出液には傷の修復を助ける様々な物質が含まれていますので、完全に取り除いてはいけません。
ガーゼは傷からあふれ出てしまって「汚れ」になってしまう分を吸い取るだけです。
 
包帯


「ラップ」や「穴あきビニール」を治療に使うというとびっくりされるかもしれませんが、人の医療でも使われている方法なのですよ(床ずれの治療などで主に使われるようです)。
※ 傷口の治療法については今も様々な意見が交わされている状況ですので、医療機関によってはラップを使用する治療法を否定するところもあるようです。

さて、「細菌感染が心配」と言っておきながら「消毒」をしなくて大丈夫なのか?

もちろん「細菌感染にたいしての対策」は必要です。
この場合は飲み薬や注射薬を使います。
抗生物質を投与することで、細菌感染を治療・予防するのです。

このワンちゃんの場合は、単純な怪我による傷ではないので、この先の経過は慎重に様子を見なければなりません。
今のところ、治療に対する反応は上々なのでこのままうまくいけばいいのですが・・・